この記事では、畠中恵「しゃばけシリーズ」の記念すべき1作目『しゃばけ』のあらすじと感想をお伝えします。
妖に囲まれた病弱な若だんなが、江戸の町で起こる奇妙な事件を解決。わくわくする展開とほんわかした雰囲気が同居する、異色の小説です。
畠中恵『しゃばけ』のあらすじ
時は江戸時代。
江戸有数の大店・長崎屋は、廻船問屋と薬種問屋を営んでいます。そんな長崎屋の一人息子・一太郎はとびぬけて体が弱いため、外出もままなりません。
若だんなの一太郎を、絶えずそばで守っているのが2人の手代です。
手代の名前は佐助と仁吉。一太郎が5歳のころ、佐助と仁吉は一太郎の祖父に連れられて長崎屋にやってきました。以来、手代2人の態度は一貫しています。とにかく一太郎のことが大切なのです。
実は、佐助と仁吉は2人とも妖(あやかし)です。2人が長崎屋にやってきてから、一太郎の周囲には、不可思議な妖たちがにぎやかすようになりました。
ある夜、病弱な一太郎は、2人の手代の過保護な目を盗んで出かけます。すると、帰り道に何者かが人の命を奪う現場を目撃してしまいました。しかし、夜の闇が深かったため、一太郎は犯人の顔を見ていません。
事件の目撃以来、江戸の町では薬種問屋ばかりを狙う猟奇的な事件が続きます。一太郎は、家族同然の妖たちとともに、事件の解決に乗り出すことになりました。
畠中恵『しゃばけ』の感想
『しゃばけ』を読んで感じたことを、以下の4つの視点に分けてお伝えします。
描写が秀逸
『しゃばけ』のジャンルはいわば「江戸ファンタジー」ですが、現実の社会と錯覚するほどに、不思議と物語に入り込めました。
江戸の風物や商売の動き方、町屋のつくりや人々の考え方などの描写が見事で、まるで当時の江戸で実際に暮らしているようです。
学生のころから「江戸時代にタイムスリップしたい」と願いつづけている私には、よだれが出るほど楽しい小説でした。
なぜか優しい雰囲気
『しゃばけ』は、捕り物帖でもあり、江戸の人情ものでもあり、妖怪ものでもあります。実に不思議な物語です。
妖が登場するとなると、「陰陽師」に出てくるような恐ろしい妖怪が出現するのかと思いますよね。しかし、大店の離れで寝込んでいる若だんなと一緒に活躍する妖たちは、明るくてほんわかとしたかわいらしい存在です。
物語の全体に、優しい雰囲気が流れています。
魅力的な妖たち
重ねての主張になりますが、妖たちがとにかくかわいいのです。なんでしょう、例えるならば、ポケモンのような……?
本書は小説なので、絵本やマンガのようにイラストがあるわけではないのですが、妖たちは実に魅力的に描かれています。こんな妖ならば、「我が家にもいてくれたらよいのに」と思ってしまいますよ。
特に佐助と仁吉です。彼らは人になりすまし、手代として長崎屋で働いています。強くて有能な佐助と仁吉が、病弱な一太郎に激甘・過保護であるという点は、とても面白いですね。
妖たちは、物の感じ方や考え方が人とは異なります。しかし、「人間っぽいな」と感じる面も多くありました。
例えば、手柄を独り占めしたがる妖や、強いものには巻かれてしまう妖。「神様」になりたいという欲望を持つ妖なんていうものも登場します。
そんな「妖人情もの」とも呼べるような部分も、『しゃばけ』の楽しいポイントです。
若だんな・一太郎の人間力
大店の跡取り息子である一太郎は、めっぽう病弱です。しかし、一太郎は優しさと聡明さを持っています。
体力はないけれども人間力の強い一太郎を、周囲の人や妖が溺愛している様子は微笑ましいものです。
裕福な一太郎の暮らしは、少しも不自由のないものに見えます。しかし、病弱さゆえの悩みは尽きません。また、一太郎の幼なじみで和菓子屋の跡取りである栄吉は、先行きが不安定です。
一太郎と栄吉の境遇を重ねているところに、作者・畠中恵さんの筆運びの素晴らしさを感じます。まさに色とりどりの心もようです。
体の弱い一太郎が持つ心の強さ
一太郎は、病気がちな自分のために家族や店の皆がしてくれた優しさを思い、事件の首謀者と対決しようと決意します。
そんな一太郎の姿から、すがすがしいものを感じました。甘やかされて育てられたお坊ちゃんというような感じは、少しもありません。気概を持った立派な若だんなです。
逃げたら、体だけでなく、心まで弱くて使いものにならないと、自分で認めなくてはならなくなる
一太郎の心情に泣かされました。妖たちが「助ける」といくら言っても、人生を自ら切り拓こうとする一太郎を頼もしく感じます。
また、周りの人に支えられているということに感謝できる、優しくて強い心を持った一太郎に励まされました。
まとめ
今回は畠中恵『しゃばけ』のあらすじと感想をご紹介しました。
物語は事件の謎解きを中心に進みますが、同時に一太郎の周りの人間や妖の関係を知ることにも重点が置かれています。
時代小説でありファンタジーであるという異色の『しゃばけ』は、読み応えのある素晴らしい小説でした。
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