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畠中恵『ぬしさまへ』あらすじと感想(しゃばけシリーズ2作目)

2つの美しいビー玉 読書ノート

病弱な若だんな・一太郎が、妖怪とともに事件を解決していくファンタジー時代小説『しゃばけ』。今回は、そんな「しゃばけシリーズ」2作目『ぬしさまへ』の、あらすじと感想をまとめます。

ぬしさまへ|各章のあらすじと感想

畠中恵の「しゃばけシリーズ」2作目となる『ぬしさまへ』は、下記の6章で構成されています。

1. ぬしさまへ
2. 栄吉の菓子
3. 空のビードロ
4. 四布(よの)の布団
5. 仁吉の思い人
6. 虹を見し事

それぞれの章は1話完結のつくりとなっているので、ちょっとした時間に読むのにピッタリです。

各章のあらすじと感想をご紹介します。

1. ぬしさまへ

本書の表題作「ぬしさまへ」は、人の心に生じた「鬼」を感じられる、興味深いエピソードです。

あらすじ

この冬、3度目の大熱を出して寝込んでいる、天下の大店・長崎屋の若だんな一太郎。

寝込んで暇をもてあます一太郎が気晴らしにしているのは、いつも側にいる手代の1人・仁吉の袂(たもと)に入っていた文(手紙)です。しかし、この文はひどい悪筆で、よく読めません。

なんと書いてあるのか、などと調べているうちに、半鐘が鳴りました。火事が起きたのです。

火事の騒動が収まったあと、日頃から親しくしている岡っ引き・日限(ひぎり)の親分が、長崎屋にやってきました。意外にも、今日は手代の仁吉に用があると言います。

日限の親分によると、先ほどの火事で、人の命が奪われたというのです。亡くなったのは、小間物商を営む天野屋の一人娘・おくめ。

おくめが一昨日、仁吉に懸想文(ラブレター)を渡していたことが、日限の親分に知られていました。そのため、日限の親分は長崎屋にやってきたのです。

一太郎や仁吉が亡くなったおくめについて考えているとき、隣家で菓子屋を営む三春屋の栄吉・お春きょうだいが、一太郎を見舞いに来ました。お春は、おくめと顔見知りであったと言います。

事件の真相が気になりはじめた一太郎は、妖(あやかし)たちにおくめのことを調べさせます。すると、おくめの評判は真っ二つに分かれることが判明しました。

感想

おくめの性根が明らかになったとき、私の背筋には寒いものが走りました。「人よりもよい立場でありたい」という人間のほの暗い欲望は、不幸な結果を生んでしまいますね……。

この事件の下手人の気持ちはよく理解できるので、哀れさが先に立ちます。

心の中が鬼に支配されてしまわないよう、なんとか踏みとどまる強さを保っていきたいものです。

2. 栄吉の菓子

若だんな一太郎は、大切な幼なじみの窮地を救えるのでしょうか?

あらすじ

一太郎の幼なじみ・栄吉がつくった菓子を食べて、ご隠居が亡くなってしまいました。ご隠居は、九兵衛という独居の裕福な老人です。

しかし、栄吉が下手人ではないことはすぐに明らかになりました。栄吉がつくった菓子の半分を、犬が食べてもなんともなかったからです。

とは言え、このような事態になっては、栄吉は自宅である菓子屋・三春屋でとても穏やかに過ごせません。そのため、しばらく一太郎の長崎屋に居候することになります。

亡くなった九兵衛は、元は博打好きの火消しで、富くじに当たって茶屋を所有し裕福になりました。お金を持っている九兵衛には、本人いわく「金食い虫」と呼ばれる連中がいたようです。

金食い虫は全部で4人。この中に、九兵衛の命を奪った下手人がいるのでしょうか?

また、九兵衛の自宅の庭に植えられているのは、毒草ばかりということも判明しました。しかし、毒草を植えさせたのは九兵衛自身。果たして、この事実はなにを意味しているのでしょうか?

感想

ご隠居の九兵衛の人生の幕引きは、とてもさみしいものでした。

「まずい」と悪口を言いながらも、栄吉のつくる菓子をしょっちゅう買いに来ていた九兵衛。菓子づくりに自信を持てなかった栄吉は、そんな九兵衛の訪問を実は楽しみにしていたと言います。

どんな立場になっても、だれか1人でも腹を割ってかかわれる相手がいてほしいものだと心底思いました。

3. 空のビードロ

若だんなの腹違いの兄・松之助が過ごした苦しい日々や、まっすぐな人柄に心打たれるエピソードです。

あらすじ

松之助が奉公している桶屋・東屋の店先に、猫の首が落とされました。店の近所では犬猫の命を奪う事件が続いていましたが、首が落とされたのは初めての出来事です。

「東屋を支えているのは番頭の徳右衛門」と、店の内外で密かに噂されています。

松之助が東屋に奉公するようになったのは8歳のときで、今は20歳になっていました。しかし、松之助の後輩にあたる奉公人は雇われていません。そのため、松之助は手代にもなれずに小僧という身分のままです。

別の日、また猫の命が奪われました。猫は、松之助の持ち物である手ぬぐいで縛られていたため、松之助は犯人だと疑われてしまいます。しかし、東屋の娘・おりんが助け舟を出してくれました。

東屋の跡取り息子・与吉は、おりんが松之助をかばったことが面白くありません。与吉は、松之助を監視するようになりました。

しかし、与吉が松之助を見張っているうちに、犬猫の命を奪っているのが思わぬ人物だと判明します。

感想

松之助の不遇な環境に胸が痛くなりました。大店の若だんなの異母兄なのに、松之助が置かれている境遇は違いすぎます。

しかし、エピソードの最後には松之助の人生に光が射してきたので、心底ほっとしました。やはり心の温かい人と交わっていられる環境というのは、幸せなものです。

前作『しゃばけ』との絡みかたが絶妙で、「空のビードロ」は本書のクライマックスと言ってもよいのではないでしょうか。

4. 四布(よの)の布団

これぞ「怪談」という面白さを持った内容です。

あらすじ

夜、若だんな・一太郎が寝ようとしていると、どこからか若い女の泣き声が聞こえます。一太郎の周りにいる妖たちにも、泣き声の主は見えません。

泣き声の主が一太郎の布団であると気がついたのは、妖の1つ・屏風(びょうぶ)のぞきでした。一太郎の布団は、「五布(いつの)仕立てのものを」と注文したはずなのに、よく見てみると四布(よの)仕立てになっています。

「五布」「四布」というのは布団の幅のことですが、どうやら繰綿問屋・田原屋が、一太郎のもとに誤って納品してしまったようです。

布団の件を物申すために、長崎屋の主人・藤兵衛と一太郎は田原屋へ出かけます。しかし、ひどく怒った田原屋の主人・松次郎の大声に、病弱な一太郎は具合が悪くなってしまいました。

一太郎の介抱のため田原屋の別室に入ろうとすると、その部屋には男が1人、頭を血に染めて亡くなっていました。

亡くなったのは、田原屋の通い番頭・喜平です。岡っ引きの日限の親分は、喜平がなぜ、どのように亡くなったのかは分からないと言います。

しかし、一太郎の周りの妖たちが聞いてまわったところ、事件の現場は4か所にものぼり、凶器はないという結果になりました。謎は深まるばかりです……。

感想

田原屋の松次郎はモラハラ・パワハラ上司だ!というのが大きな感想です(笑)。しかし、一太郎が事件の真相を明らかにしたことで、松次郎の心はよい方向に動きはじめました。

なかなかに痛快な短編です。

それにしても、松次郎の大声で具合が悪くなってしまう一太郎は、さすがですね。「しゃばけ」シリーズの魅力は、一太郎の病弱さにあると言ってもよいでしょう。

5. 仁吉の思い人

妖である正体を隠し、手代として一太郎を守る仁吉の、一途な思いが描かれています。

あらすじ

夏の盛りは過ぎたはずなのに、一太郎は夏バテからまったく回復しません。「きちんと薬を飲めたら仁吉の失恋話を聞かせる」という誘いにひかれた一太郎は、頑張って薬を飲みます。

それは1000年も昔の話です。仁吉が恋する相手は不老長寿の妖で、平安時代には彼女は「吉野どの」と呼ばれていました。

吉野を振り向かせたのは仁吉ではなく、1人の公達(きんだち)でした。対して位も高くない若い貴族の男は、吉野が妖であることを知っても、愛情を失いませんでした。

男は吉野に銀の鈴を贈りました。鈴の音を合図に、2人は逢瀬を重ねます。しかし、「鈴君」は、30歳にもならないうちに亡くなってしまいました。

300年後の伊勢でも、それからさらに250年経った大阪でも、吉野と鈴君は奇跡的に出会い、お互いに愛し合います。

時は移り、江戸時代になりました。一太郎が暮らす現在から100年ほど前、「お吉」と名前を変えていた吉野の前に、男が現れました。

男から鈴の音が聞こえたため、吉野は「鈴君が現れたのか?」と胸をときめかせます。男は寒紅売りの弥七と名乗りました。しかし、このときに限っては、吉野は鈴君とはっきり見分けられません……。

感想

1000年以上も振り向いてもらえない吉野の側で、ずっと支えつづける仁吉! まさに究極の片思いです。切ないにもほどがあります。

人間なら途中でうんざりして、相手から離れるのではないでしょうか。しかし妖は特別です。自分を愛してくれることはない相手を、側で見守りつづける仁吉の男前さに感服します。

そして吉野や鈴君が一太郎にもかかわってくるのが、この話の面白いところですね。

6. 虹を見し事

最後の最後までなにが起きているのか分からない、不思議なエピソードです。

あらすじ

一太郎の周りには、いつも手代の仁吉や佐助、妖たちがいるはずです。しかし、今日はいつもと様子が違います。だれも一太郎の部屋に顔を出しませんでした。一太郎は不思議で仕方ありません。

妖たちを見かけなくなって3日が経ちました。佐吉と仁吉は長崎屋で仕事に励んでいますが、いつもと異なり、まるでまっとうな人間のように振る舞っています。一太郎は気味悪く感じました。

あることがあってから、一太郎は「これはだれかの夢の中だ」と確信しました。一刻も早く、だれの夢なのかを確かめたい一太郎。該当人物と思われる人たちを、消去法でしぼっていきます。残ったのは、兄の松之助と女中のおまきでした。

感想

常にフワフワと浮かんでいる感覚に陥るような、変わったエピソードでした。「夢」という雰囲気が文章からにじみ出ていたのでしょう。プロの作家に「さすが」と言うのもはばかられますが、さすが畠中さんです。

また、この「虹を見し事」で注目したいのが、一太郎の若だんなとしての振る舞いと、兄・松之助の登場です。

一太郎は病弱ながらも、奉公人を気にかける優れた跡取りとして描かれています。また、松之助が長崎屋で働いているという事実に、私は嬉しくなりました。

まとめ

今回は、畠中恵の「しゃばけシリーズ」2作目となる『ぬしさまへ』の、あらすじと感想をまとめました。

表題作「ぬしさまへ」を皮切りに、前作『しゃばけ』に連なるような「空のビードロ」など、人情味ある珠玉の短編がつまっています。読後にまとめてみても、読みごたえある内容でした。

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7歳の(場面かんもく)アラレちゃん・2歳のガッちゃん・夫と4人でゆる~く暮らす、地方在住のWebライター。
社会福祉士保有の介護職員・支援相談員として勤務した経験あり。
このブログでは、場面かんもく・育児・暮らし・海外ドラマのことなどを自由につづっています。
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