葉室麟(はむろ りん)さんの小説『恋しぐれ』を読みました。
以前から気になっていた作家さん。今回ようやく読むことができました。
作品の完成度の高さにうなりましたよ~。
『恋しぐれ』あらすじ
『恋しぐれ』は、与謝蕪村(よさ ぶそん)とその周りの人々の恋を描いています。
7つのエピソードからなる、連作短編集です。
江戸時代の著名な俳人・画家である蕪村。
本書で描かれる蕪村は67歳で、老境を迎えています。
俳人・画家としての地位も確立し、家族や友人、弟子から厚い信頼も得ています。
そんな蕪村が、祇園の妓女に本気の恋をしました。
蕪村のこの設定を基盤として、7つの短編は進められます。
7編はそれぞれ、弟子や友人、娘などの人物を主人公として描かれています。
参考までに、こちらが各話のタイトルです。
- 夜半亭有情
- 春しぐれ
- 隠れ鬼
- 月渓の恋
- 雛灯り
- 牡丹散る
- 梅の影
『恋しぐれ』感想
どこか親しみやすい、まっすぐな恋模様
『恋しぐれ』は実在した人物の登場する歴史小説ではあります。
しかし、本書に描かれているのは市井の人間模様です。
7つのエピソードはそれぞれ、どこか身近で聞いたことがあるような、親しみやすい恋模様であると感じました。
恋とはいっても、どろどろした艶めかしい印象は受けず、切なく純粋な感情が描かれています。
藤沢周平作品を思わせる
恥ずかしながら、私が葉室麟さんの作品を読んだのは本書が初めてでした。
読んですぐ感じたのは、「藤沢周平作品にどっぷりハマっていた、学生時代を思い出すなぁ」ということ。
作者から作中の人たちに注がれる、優しさと悲しさの混ざった視線が、似ているのかもしれません。
俳句の余韻
小説のところどころに、蕪村やその周囲の人びとののこした俳句がちりばめられています。
そのことが、物語の色どりを与え、味わいを深くしてくれているように思います。
たとえばこんな句。
さみだれや大河を前に家二軒
これは蕪村の娘の結婚譚「春しぐれ」にて引用された一句ですが、娘の幸せを祈る蕪村の心情を、より深く感じることができました。
生きるが勝ち
本書を読んで最も心に残ったのは、蕪村の弟子・大魯(たいろ)を主人公として描かれた、「隠れ鬼」のエピソードです。
大魯が恋した女性が、こんな言葉を彼にかけます。
世の中、悪いことばかりやない。自分がしっかりしてたら生きていける。死んだらしまいや。生きた者が勝ちや
この言葉によって、大魯は生き方を変えました。
多くの過ちをおかした大魯がとうとう再起できたことや、それを見守り喜ぶ師匠・蕪村の姿に胸が熱くなりました。
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